横隔膜ペーシング治療は海外においては1970年代より開始された治療法で、既に数千例以上もの実績があります。日本ではこれまでに個人輸入や臨床研究など、限定的な使用に留まっておりましたが、2017年10月に日本で初となる横隔膜ペースメーカが薬事承認され、2019年9月1日より保険償還が開始されました。これにより患者様の経済的負担も少なく導入することが可能となりました。
本治療は、「横隔神経の電気刺激により横隔膜の収縮が可能な、人工呼吸器に依存する①脊髄損傷、②中枢性低換気症候群」の患者様が適用の対象となります。
横隔膜に植込まれた電極に電気刺激が送られて、横隔膜が収縮することで呼吸補助を行います。電極の植込み手術は、腹腔鏡を用いて2時間程度の所要時間で、比較的低侵襲に行う事が可能です。電極は横隔膜に左右2本ずつ経皮的に植込まれ、体外式のペースメーカにより電気信号が送られます。術後に横隔膜のリハビリトレーニングを実施して、在宅での管理が可能となります。
横隔膜ペーシング治療による呼吸補助は、陽圧式の人工呼吸器とは異なり、生理的な呼吸で用いられている陰圧での呼吸を可能とします。
〖息を吸う〗
横隔膜への電気刺激によって、筋肉である横隔膜が収縮します(図の左)。これにより、胸郭の体積が増えます(肺が入っている胸の空間が膨らみます)。すると、胸郭に陰圧が形成され、同時に肺も膨らみます。この時に肺が膨らむことで、気道を通じて空気が送り込まれます。
〖息を吐く〗
電気刺激が収まると横隔膜が弛緩して元の位置に持ち上がります(図の右)。これにより胸郭の体積も元に戻ります。この時に肺に入っていた空気は自然と外に出されます。